人口減少問題への対応
人口減少問題と東京一極集中問題を克服し、持続可能な都市を築いていくには、他都市にはない個性と魅力、安定した雇用と税収を生み出し、若者から「選ばれる地方都市」をめざす必要があります。その点、スポーツは若者を惹きつける力と観客動員力があります。そこで遠州灘海浜公園(篠原地区)は、プロ・アマ球界から注目され年間を通して利用される野球場の整備と、若者に人気の高いスポーツ施設を整備し、全国から若者が訪れるようなスポーツパークをめざす必要があります。
浜松創生ビジョン2050 戦略Ⅲ
浜松を「野球のメッカ」に
人口減少問題と東京一極集中問題を克服し、持続可能な都市を築いていくには、他都市にはない個性と魅力、安定した雇用と税収を生み出し、若者から「選ばれる地方都市」をめざす必要があります。その点、スポーツは若者を惹きつける力と観客動員力があります。そこで遠州灘海浜公園(篠原地区)は、プロ・アマ球界から注目され年間を通して利用される野球場の整備と、若者に人気の高いスポーツ施設を整備し、全国から若者が訪れるようなスポーツパークをめざす必要があります。
市は道路や上下水道、公共施設などのインフラの老朽化対策に、今後50年間で2兆8,675億円が必要(574億円/年)と試算しており、毎年330億円が不足するとしています(H28市公共施設総合管理計画)。その負担は人口減少時代を担う若者が背負うことになります。「新野球場」は、次世代に更なる高負担を強いることのないように、投資以上の経済効果が得られる「稼ぐ球場」をめざす必要があります。
スポーツは市民の健康や体力増進にとって大切なことから、体育館をはじめ武道館やアリーナ、野球・サッカー・テニス・水泳場などが整備されてきました。近年はスケボーやスポーツクライミングなどに若者の人気が集まっていますが、気軽にプレイする場所や施設が不足しています。新野球場にはこれらの施設を併設し、時代のニーズに対応するとともに、各種大会を招致し交流人口を拡大する必要があります。
「スポーツ振興による地方創生」を実現するには、交流人口を増やし、消費を拡大するための戦略が必要です。海浜公園は青少年の健全育成を目的としていますので、既存の市総合水泳場を含め、新野球場を中心に、若者に人気のあるスポーツ施設を併設し、投資以上の経済効果の得られる総合スポーツパークをめざしています。
新野球場は、硬式野球場の不足問題を解決すると同時に、各種大会や合宿を招致できる施設を充実させ、全国から大勢の若者や競技者、観客が訪れ、プロ球界や大会主催団体等から『野球のメッカ』として評価され、利用される全国初となるベースボールパークをめざしています。
浜松は本州の真ん中にあり、首都圏と関西圏から新幹線でわずか90分の距離にあります。空港も利用でき地理的に非常に恵まれています。そこで地の利を活かし、浜松を訪れた競技者やファンがシームレスに会場に移動できるように公共交通を整備、スポーツと公共の一体的なまちづくりをめざしています。
交流人口を拡大していくうえで、マイカーに依存した浜松市の公共交通は致命的な問題があります。そこで、『ビジョン2050戦略Ⅰ』において「浜松型次世代交通システムによる地方創生」を提案しています。
「新野球場問題」は、県議会・市議会を揺るがすほどに混迷を深めています。そこで過去の経緯を調べ、何が問題なのか、市民・県民にとって新野球場はどうあるべきかを検証してみました。
2016年1月、「野球場用地、浜松市取得へ」という報道がされました。そこには鈴木康友浜松市長とスズキ(株)会長が前年12月に川勝平太県知事を訪問し、新野球場の早期整備を要望したことが記されています。また、別の報道で、市長は新野球場が完成した後に四ツ池公園野球場を撤去し、陸上競技場を国際大会が開催できるように再整備するという構想を示しています。これに対し、県議会・市議会は猛反発し、2016年3月議会において、野球場関連予算を凍結するという前代未聞の事態に発展しました。これを受けてスズキ㈱会長は市議会の対応を非難、「土地の取得用に寄付したが、そんなに球場が嫌なら去年寄付した5億円は市に返還を求めたい」と述べています。同社はかねてから、陸上選手の強化のため第1種陸上競技場の整備を望んでおり、一連の言動から、5億円を寄付した2015年3月時点で、すでに四ツ池公園浜松球場を廃止するという計画が、市と県の三者間で密かに進められていたことになります。2021年2月には「浜松球場を解体して第1種陸上競技場を整備、篠原地区には大型球場を整備する」という報道がされています。
【参考記事】
県は22,000人収容の大型球場の建設をめざしており、これは県議会でも大きな争点となっています。納税者の立場から「本当に必要な施設なのか」「問題は何か」について検証してみました。結果は以下に示した通りですが、こんなにも多くの問題があるとは驚きです。その多くは議会で議論がされていないようですが、税金を投入するからには徹底した議論が必要です。
浜松球場でのプロ野球公式戦は、毎年1試合行われており、平均観客数は約11,000人です。草薙球場も12,700人と少なく、人口減少によりさらに減少することになります。22,000人の大型球場は無用の長物となり、過剰投資となります。
年に1回のプロ野球のための大型球場は、「誰のための球場か」という基本理念が欠落しています。22,000人が観戦したとして、市に入るのは会場使用料のみです(約73万円・練習日含む2日間)。稼働率・採算性ともに問題があります。
新野球場は「長年の要望」、「経済効果が期待できる」という地元の声に押された計画ですが、年に1回プロ野球を招致するだけでは経済効果はゼロです。大半はマイカー利用客ですから、ビールは売れず、試合が終われば帰宅してしまいます。試合や利用のない日は尚更で、計画自体に無理があります。
市はインフラの老朽化対策に、今後50年間で約2兆8千億円余の財源が必要(年約570億円)と試算しており、毎年約330億円が不足するとしています。このうえ、さらに採算性が悪く、将来的に負担増となる大型球場は財政的に問題です。
市は公共施設の統廃合や、区再編など行革による徹底的な経費削減に取り組んでいます。「県がお金を出してくれるから」と言っても財源は税金です。維持管理にも税金が使われることになり、行革と逆行することになります。
「地方創生」は、個性と魅力を備えた競争力のある都市を創ることにあります。「西部には県営球場がないから大型球場が必要」というのは人口も経済も右肩上がりの時代の発想で、地方創生に逆行することになります。
県・市議会が、2016年度予算から野球場関係の予算を削減した当時の諸問題は、今も未解決のままです。特に強く指摘されていた強風や飛砂の影響が現実問題となれば、プロ野球招致の道は閉ざされ、宝の持ち腐れとなってしまいます。
新野球場は市の最南端にあり、公共交通のアクセスが悪く(JR高塚駅から徒歩25分)、大型球場には適していません。ちなみに浜松球場は遠鉄上島駅から徒歩10分で大変便利です。
郊外に大型施設を作り大規模駐車場を整備するという計画は、車依存社会の発想のままで、世界がめざしている脱炭素社会に逆行することになります。
運輸別CO2排出量
(一人を1km運ぶ時出される量)
硬式野球場を必要としているのは、高校生をはじめ大学・社会人・少年・女子野球、リトルリーグなどです。天竜川以西には県高野連加盟高校が24校あり、春夏の地区大会や新人戦は、練習場確保や大会運営で苦労しており、他の団体も球場不足で悩んでいます。浜松市の硬式野球場は5ヵ所ありますが、春野総合運動公園・船明ダム運動公園・渚園は地理的に遠く、日常的に利用できるのは浜松球場と浜北球場の2ヵ所のみです。本当に必要なのは市民のための小・中型球場です。
硬式野球場と高野連加盟高校の位置関係図
津波対策は、東日本大震災を教訓にすべきです。防潮堤を乗り越えた津波が多くの人命を奪った映像は、今も記憶に深く残っています。津波は「海とは逆方向の高台に逃げろ」が鉄則です。災害が最も予測される場所に大型球場を整備する計画は、都市計画の基本から逸脱しています。
国道1号線浜松バイパスは、東京・大阪間で最も信号が多く渋滞と事故が多発し、物流交通の速達性を著しく阻害しています。新野球場に側道のない大規模駐車場を設置した場合、入場待ち車両による交通渋滞、追突事故を誘発することになり、大型球場は交通政策上重大な問題があります。
浜松のバス事業は、路線バス利用客の激減と、コロナ禍による観光バス需要の激減により、車両の大幅削減が進んでいます。加えて全国的な乗務員不足もあり、これまでのような大規模イベント時のシャトルバス便運行は、バスの調達が困難となり、現実的に不可能となりつつあります。
新野球場は、利用する市民・県民の立場からの利便性が求められます。最も重視すべきは「顧客は誰か」という点です。硬式野球の場合、リトルリーグ、シニアリーグ、高校・大学・社会人野球、独立リーグ、女子野球の選手や監督・コーチ・マネージャー、それを支える家族や応援する生徒・先生たちです。高校野球だけでも高野連加盟24校には約890名(令和2年)の部員がいます。高校生の移動手段は路線バスか自転車のため、現在の浜松球場が地理的に最適地です。
四ツ池公園浜松球場(プロ野球オープン戦)
静岡県高野連には111校が加盟しており、4,132名の部員が登録(2020年)されています。甲子園出場をめざす県大会は、浜松球場で4回戦まで12試合が行われ、決勝戦は草薙球場が使用されています。西部地区大会は浜松球場・浜北球場(明神池公園)など5球場が使用され、浜松球場では9試合、浜北球場で2試合が開催され、決勝戦は掛川球場で行われています。浜松球場は遠鉄電車「上島駅」に近く、東名三方原スマートICからも近く(約2㎞)、大型スポーツ施設として理想的な環境にあります。
四ツ池公園は昭和16年に市民の勤労奉仕により、野球場と陸上競技場のある公園として開設されました。その後昭和54年に野球場、56年に陸上競技場の全面改修が行われています。四ツ池公園は公共交通の便が良く、特に浜松球場は地元住民から「野球の聖地」として親しまれています。浜松球場、陸上競技場はともに存続させるべきです。
陸上競技は野球に比べると競技人口が少なく、観客動員数も野球ほどではありません。第1種を必要とする選手層は薄く、第1種陸上競技場のある「草薙」と「エコパ」で開催される国際大会等は年1~2回です。稼働率の低い競合施設を造るのは「地方創生」に逆行することになります。
国が「2050年脱炭素社会」を宣言したことで、大型スポーツ施設は都市計画上、鉄道等による人員輸送が大前提となります。篠原の「新野球場」は鉄道とバスの便が悪いため、大型球場は不適格です。一方、「浜松球場」は遠鉄電車を利用できるうえ、『戦略Ⅰ』で提案している新たな交通モード(LRT)が実現すると、どちらからも徒歩10分で着くことができます。東名三方原スマートICからも近く(2km)、陸上競技場にとっても最適地ですので、野球場との一体的な整備が必要です。
四ツ池公園浜松球場・陸上競技場への公共交通アクセス
「浜松球場」と「陸上競技場」はともに老朽化が進んでいます。30年先を見据えた総合的な再整備が必要です。現在の浜松球場の収容人員は26,000人ですが、利用実績と人口減少を加味して12,000人規模に縮小して全面改修、陸上競技場は第2種仕様で全面改修が妥当と考えます。
国は地方創生を推進するにあたり、全国一律的な都市づくりではなく、地域の特性を生かした個性と競争力のある都市づくりを求めています。そこで、新野球場は全国初となるベースボールパークとするとともに、若者に人気のあるスポーツ施設を併設し、市総合水泳場とともに海浜公園一帯をスポーツパークとして整備して、にぎわいと経済効果のある球場をめざしています。
「新野球場」は小型球場の役割を担い、不足している硬式野球場の充足を図ります。一方「浜松球場」はプロ野球のできる球場として再整備し、大型球場の役割を担います。両球場の特色を生かして連携活用することで、プロ・アマの関係者から「野球のメッカ」と評価され利用される球場をめざします。
浜松市は先進地の松山市を視察しており、その際の報告書には松山市から以下のような貴重なアドバイスが寄せられています。
「ベースボールパーク」は、3面の小型球場と屋内雨天練習場で構成し、各種大会を積極的に招致します。オフシーズンにはプロ、ノンプロの合宿を招致し、1年を通して利用される球場とすることで、地域経済の振興をめざしています。この構想案(下図)は民間から示されたものですが、「スポーツ振興による地方創生」を実現するうえで最善の策と言えます。
浜松ベースボールパーク
野球の本場アメリカには、「ピアリア・スポーツコンプレックス(写真)」のような多面球場があります。野球に特化することで、子供から大人までが1日楽しむことができます。この球場は日本のプロ野球のキャンプ地としても利用されています。
大学選抜チームをはじめ社会人やプロ野球チームは、10月から11月にかけて秋季キャンプを行っています。プロの秋季キャンプは、松山(愛媛県)、宮崎(宮崎県)、倉敷(岡山県)の球場が利用されており、申し込みが殺到すると言われています。キャンプ期間を10日とすると、1チーム500~1,000万円の地域経済効果が見込まれます。そして、子供たちはプロの練習を間近で見ることができます。
新野球場敷地は国道1号線バイパスに接していますので側道が必要です。西進車両が入場待ち渋滞を起こすと、追突などの大事故を起こす危険性が高く、現にバイパスでは事故が多発しています。大型球場に比べ駐車台数は少ないものの、総合水泳場もあり十分な側道を設ける必要があります。
遠州灘海浜公園(篠原地区)全体図
篠原地区は農産物の生産地でもあり、新野球場に「道の駅」を併設することにより、地産地消による経済効果を図ることができます。「ベースボールパーク」と「スポーツパーク」との組み合わせにより、365日利用される稼働率の高い球場となります。
近年はスケボーやクライミングなどが若者に人気があります。以下の競技は東京五輪種目にも採択されていますが、市内にはプレイする場所や施設が少ないのが実情です。そこでこれらの施設を整備するとともに、全国大会を招致するなど、1年を通して若者が集まるようなスポーツパークをめざしています。
前後に車輪のついた木製の板で、難易度やスピード、高さ、独創性などを競うスポーツ。街なかにある坂や手すりなどの障害物を模したコースで行う「ストリート」と、おわん型の湾曲した複雑なコースで行う「パーク」の2種目がある。
そそり立つ壁に設置されたホールドを素手で登る競技。高さ15mの壁を2人の選手が速さを競う「スピード」、高さ4mの壁を4分以内にいくつ登れるかを競う「ボルダリング」、高さ15m以上の壁を6分以内にどの地点まで登れるかを競う「リード」の3種目で総合ポイントを競う。
自転車競技の中で唯一、審査員の採点で決まる競技。コースには曲面やジャンプ台があり、選手は一人ずつアクロバットな技を使い、ジャンプ中に自転車を縦や横に回転させたり、ハンドルを回したりして、独創的な技を競いあう競技。
若者にアピールするスポーツとして東京五輪から採用された種目。コートは通常のバスケットボールの半分ほどの広さで、1試合は10分、先に21以上点を取れば終了となる。
遠州灘海浜公園に野球場や若者向けのスポーツ施設ができると、既存の総合水泳場との相乗効果により、篠原地域の経済振興に寄与することになります。できれば長期的発展を見据え、海浜公園のエリアを拡張し、武道場やアリーナを併設するなど、スポーツ振興による地方創生を強力に推進する必要があります。
世界の国々は、国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)に基づいて、化石燃料に依存しないEV車への転換や、車に依存しなくても移動できる都市をめざしています。日本でも100年に一度といわれるモビリティ改革が進んでおり、今後新設する大規模スポーツ施設等は、大量輸送機関との接続が必須となりますので、交通とまちづくりの一体的な整備が必要です。
浜松市は地の利の良さと、新幹線で90分の距離に「首都圏」と「関西圏」があることが最大の強みです。そこで、浜松駅から各施設にシームレスに移動できる公共交通と一体的な整備により、交流人口の拡大をめざしています。
右図は『戦略Ⅰ』で提案しているLRT南北幹線の構想図です。明神池運動公園と中田島を結ぶ約22kmの沿線周辺には、多くの企業をはじめ、スポーツ施設や音楽・観光施設があります。北端には浜北球場があり、南端には篠原新野球場やビーチコート、海浜公園球技場があり、ほぼ中間点に四ツ池公園浜松球場があります。LRTの整備により、浜松駅に到着した人々がシームレスに会場に移動できるようになります。
天竜川以西で高野連に加盟している高校のうち13校が南北幹線交通軸の沿線周辺にあります。高校生の移動はバスか自転車が中心のため、浜松球場が地理的に最も利用しやすく、公共交通との一体的整備が必要です。
南北幹線交通と硬式野球場・高校位置図