人口減少と高齢化が深刻な天竜区
天竜区は市の総面積の60.5%を占めていますが、人口は3.4%(26,003人/2023年)に過ぎません。人口は10年前に比べ20%も減少し、高齢化率は46.9%(全市平均28%)、2023年の出生者数は僅か66人です。10年間に50%も減少(132人/2014年)しており、人口減少と高齢化は深刻な問題です。人口減少問題を克服し、持続可能な天竜区実現のための戦略が必要です。
天竜区人口減少の推移
天竜区高齢化率(65歳以上)の推移
浜松創生ビジョン2050 戦略Ⅴ
埋もれた地域資源で天竜区再生
天竜区は市の総面積の60.5%を占めていますが、人口は3.4%(26,003人/2023年)に過ぎません。人口は10年前に比べ20%も減少し、高齢化率は46.9%(全市平均28%)、2023年の出生者数は僅か66人です。10年間に50%も減少(132人/2014年)しており、人口減少と高齢化は深刻な問題です。人口減少問題を克服し、持続可能な天竜区実現のための戦略が必要です。
天竜区人口減少の推移
天竜区高齢化率(65歳以上)の推移
天竜区には伐採期を迎えた広大な「森林資源」があります。佐久間ダムには、活用すれば資源となる「ダム堆砂」が埋もれています。「木材」と「土砂」の違いはありますが、いずれも天竜区にしかない「地域資源」です。無尽蔵に近いこれらの「地域資源」を成長産業から基幹産業へと発展させることが、天竜区創生の切り札となります。100年先を見据えた戦略と対策が必要です。
浜松市の森林は市域の68%を占め、その9割を天竜区が占めています。森林には洪水や水害防止、水源の涵養、二酸化炭素吸収による地球環境保全など大切な役割があります。ところが林業従事者の不足などにより、枝打ちや間伐等の山林管理が行き届かなくなり、森林の荒廃が起きています。
浜松市全図(航空写真)
天竜は吉野・尾鷲と並んで日本三大人工美林と称され、江戸時代から治山・治水を目的に植林が行われてきました。明治中期には金原明善によって龍山村の御料林に292万本、私有地に401万本が植林され、今日の育成型林業の基礎が築かれてきました。
天竜の人工林は杉とひのきが約7割を占めており、市は標準伐採期を「杉40年」、「ひのき45年」と定めています。樹齢41年以上に達したものは48%、61年以上は34%を占めていますが、輸入材に押され、林業は不採算性と林業従事者不足の二重苦で悩んでいます。
森林は適正な管理が必要
林業からは「林地残材」「未利用間伐材」「製材廃材」など、大量の不用材が発生します。これらの不用材は回収にも処分にもコストがかかり、放置すれば森林の機能低下を招くという大きな問題を抱えています。一部は木質バイオマスとして燃料に利用されていますが、それ以外は処分方法がなく、根本的な解決策が必要となっています。林業再生が進むと不用材も増え続けることになりますので、「林業再生」と「林業廃材」を一体的に捉えた林業改革が必要です。
森林資源を天竜区の基幹産業に発展させるには、林地と物流拠点(天竜二俣駅)を結ぶ大量輸送システムが必要となります。山間地は道路が狭く大量の資源を半永続的に輸送するには、脱炭素社会に対応した鉄道が最も適しています。森林は先人たちが整備してきたものですが、輸送手段はそれを維持し活用する現世代が整備し、未来へと引き継いでいく必要があります。
世界の森林は乱伐や違法伐採、無計画な農地への大規模転換などにより、年々面積は減少しています。FSC認証制度は「森林の管理が適切に行われているかどうか」を評価・認証し、そうした森林からの生産品であることを証明するもので、1993年に発足した国際的な認証制度です。森林の管理、人材育成などの重要性が増しています。
浜松市の森林は4万9千haがFSCの認証を受けています。市町村別取得面積は日本一です(2020年)が、それだけでは販路は拡大できません。林業の根本的な課題を解決し、「稼ぐ林業」に転じるための長期戦略が必要です。
静岡県は荒廃した森林を再生し、山地災害の防止や水源の涵養を回復させる財源として、2006年から「森林づくり県民税」を導入(個人年400円)しています。
国は令和6年度から森林環境税を創設し、市町村において課税(個人年1,000円)する計画です。その税収は間伐や人材育成、担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発に充てられ、使途についてはインターネットなどによる公表が義務付けられています。なお、税徴収に先駆けて交付税及び譲与税配付金特別会計における借入金を原資に、令和元(2019)年度から「森林環境税贈与税」の譲与が開始されています。令和2年度は浜松市に約2億6千万円が譲与されました。
浜松市域の天竜川には3つのダム(佐久間・秋葉・船明(ふなぎら))があります。上流部の佐久間ダムは、1956年に完成してから半世紀以上が過ぎており、ダム湖には約1億2千万㎥(総貯水量の約1/3)の土砂が溜まっています。佐久間ダムには「排砂ゲート」が設けられていないため、毎年130万㎥の土砂が増加しています。一方、ダムが土砂の移動を遮断しており、河口部では海岸線の浸食が進んでおり、堆砂処理のための超長期的な戦略が必要となっています。
佐久間ダム(1956年完成)
国(国土交通省中部地方整備局)は、ダムの洪水調整機能を維持し、海岸線の浸食を抑制するため、堆砂バイパストンネルによる排砂や、堆砂を浚渫して河道に仮置きし、洪水流で河口に移動させる事業を行っています。前者については、堆砂の粘性が高くトンネル内で目詰まりするため中止となっています。後者については、浚渫した堆砂を運搬船でダムまで運び、ベルトコンベヤでダムの下のストックヤードまで運んで仮置きし、出水時に流出させる工法をとっています。
現在、国の認可を受けた天竜川砂利事業協同組合等により、年間約40万㎥がコンクリートやアスファルト用骨材として資源化されています。ダムにとって堆砂は厄介者ですが、活用すれば資源に変わります。より多くの堆砂を資源化することで、ダム堆砂を減らすことができます。
先人たちから受け継いだ森林資源を適正に管理し、「利潤」と「雇用」を生む成長産業へと発展させていくには、50年・100年先を見据えた戦略と投資が必要です。それはダム堆砂の資源化も同様です。どちらも地方創生にとっては重要なテーマですので、超長期的な戦略目標として実現をめざしていきます。
伐採から製材・加工・販売に至るまでの安定した経営基盤を確立し、「稼ぐ林業」をめざすとともに、森林機能を維持するための「下草刈り」や「枝打ち」「間伐」「再造林」に至る循環サイクルを確立し、持続可能な林業をめざす必要があります。
膨大な量の「森林資源」を運搬するには、トラック輸送だけでは限界があります。先人たちが100年先を見据えて森林を護り育ててきたように、100年先まで利用できるインフラとして、鉄道を整備する必要があります。
国は長年にわたりダム堆砂対策事業に取り組んでいますが、試行錯誤の段階が続いています。「森林資源」と「ダム堆砂」はともに、川上から川下へ半永続的に輸送するという共通点があります。地方創生のモデル事業として、国と市が連携して鉄道を整備することで、持続可能な都市づくりが可能となります。
伐採期を迎えている森林資源は、人口減少で悩む天竜区再生の切り札です。「稼ぐ林業」へと構造改革を進め、基幹産業へと発展させて雇用を生み出すことで、天竜区の活性化を実現することが可能となります。
佐久間ダムが建設された時には、工事関係者は3千人に上り、街には歓楽街が生まれ、完成後は観光客が詰めかけ、約10年間は佐久間中部地区には映画館やパチンコ店などの娯楽施設が50店舗以上並んでいたという記録が残されています。
林業はこれまで低迷を続けてきましたが、世界的な木材需要により、2020年の輸出額は2001年の5倍(林業白書)となり、「儲かる林業」に転じる好機を迎えています。森林の機能を維持し、林業を成長産業から基幹産業へと発展させていくためには100年先を見据えた林業改革が必要です。
林業再生の第一ステップとして、林業廃材の最適集積地に「バイオマス発電所」を整備し、新たな雇用を創出する計画です。林地や製材所からは大量の林業廃材が半永久的に発生します。処分するにはコストがかかり、放置すれば森林を荒廃させる厄介者ですが、バイオマス燃料として発電すれば資源に変わります。発電した電気はLRTや天浜線、地域の工場(製材所、CLT工場やチップ・ペレット生産工場)等に供給し、排熱は地域熱供給に活用することで「エネルギーの地産地消」を実現できます。(参考事例:真庭バイオマス発電所)
真庭市は岡山県で面積が最も大きく(828㎢人口45,000人)森林が80%を占め、天竜区(943㎢人口26,000人)と共通点があります。2015年に「真庭バイオマス発電所」を稼働(総事業費41億円)し、木質チップを燃料に年間約8,500万kw/h、22,000世帯分を発電し23億円の売電収入を得ています。
広大な森林資源を成長産業へと発展させていくには、上質の木材や柱・板材等の供給だけでは、販路拡大には限界があります。新たな需要創出として、FSC認証材を使ったCLTが注目されており、大阪万博の大屋根(リング)にも大量のCLTが使用されています。CLT生産拠点は中部、関東、関西エリアは空白域のうえ、新東名を利用できるなど立地条件に恵まれており、「CLT生産拠点」を整備し、新たな木材需要を生み出し雇用を創出する必要があります。
CLTパネル
CLTとは、Cross Laminated Timber(クロス・ラミネイティド・ティンバー)の略で、板の層を各層で互いに直交するように積層接着した厚型パネルのことです。平成25年に日本農林規格(JAS)として、「直交集成板」の名称により制定されました。断熱性、耐震性に優れ、比重が軽く建築基準法改正により、中大規模の建築物に使用できるようになりました。国産の杉でも十分な強度を有するCLTパネルを製作できることから、天竜材の販路拡大が期待されています。
「木質チップ」は、林業廃材を切削もしくは破砕して木片にしたものです。林地残材(間伐材等)は水分が多く、そのままでは燃料として利用しにくいため乾燥が必要です。そこで、「木質チップ生産工場」をバイオマス発電所に併設し、排熱を利用して乾燥させ、燃料として発電することで効率的な発電が可能となります。バイオマス発電が軌道に乗ると木材チップの需要が高まり、枝打ちや間伐等など林業の活性化を促すことになります。
木質チップ
ペレットはバイオマス資源(樹皮や間伐材、製材廃材等ピュアな資源)を粒状に圧縮成形した固形燃料です。発熱量・燃焼効率が高く、運搬・貯蔵が容易で安定供給できるクリーンエネルギーです。世界が脱炭素社会をめざして動き出したことから、化石燃料に代わる燃料として木質系ペレットの需要が拡大しています。温室栽培では燃料代の高騰から、重油暖房に代わる燃料としてペレット暖房機への期待が高まっています。
木質系ペレット
治山・治水を目的に100年以上にわたって整備されてきた森林の歴史や、森林の機能や林業についての正しい知識を、遊びや体験を通して次代を担う子どもたちに教え、森林を守り育てていくことの大切さや林業の魅力を伝え、将来の人材育成をめざす必要があります。
活動団体の支援
・TENKOMORI(天竜これからの森を考える会)
・天竜林業研究会
林業を成長産業に発展させるには、林道の整備から、林業機械の近代化、林地から物流拠点までの輸送手段など、基盤整備が不可欠です。特に、木質バイオマスの有効活用、バイオマス発電によるエネルギーの地産地消、CLT等の新規事業については、先進的な研究が必要です。これまで商工部門に多額の補助金を交付してきたように、今後は、林業への大胆かつ大型の財政支援と人材投入が必要です。
先人たちが守り育ててきた森林を適正に管理し、利潤と雇用を生みだす成長産業へと発展させて持続可能な森林経営の基盤を築くには、林地から伐り出される大量の木材を、製材所や物流拠点に効率的に運搬するためのインフラ整備が必要となります。
無尽蔵に近い森林資源を半恒久的に運搬するには、トラック輸送では限界があります。それには佐久間ダムから物流拠点の天竜二俣駅まで(約35km)、鉄道を敷設するという超長期的戦略が必要です。佐久間ダムは標高250mの位置にあり、積載時は下り坂となるため省エネ輸送が可能となり、回生ブレーキによる発電(売電)もできます。また使用する電力は全て、林業廃材よるバイオマス発電で賄うことで、輸送コストの削減と林業廃材の有効活用をめざしています。一部未成線(旧国鉄佐久間線)を活用できるメリットもあり、ダム堆砂の運搬にも利用できるため、100年先を見据えたインフラの整備が必要です。
木材輸送ルート
佐久間ダム~天竜川河口までの標高差(国土地理院:標高のわかるWeb地図)
ダム堆砂は厄介者ですが、活用すれば資源に変わりますので、可能な限り骨材に資源化することが望まれます。現在、堆砂は佐久間ダム上流部で掘削され資源化されていますが、物流面から増産には限界があります。以下は、森林資源輸送のためのインフラ(鉄道)が整備され場合を想定した提案です。
国のダム堆砂対策事業と連携して、佐久間ダムからベルトコンベヤでストックヤード運ばれた堆砂を、鉄道で輸送することが可能となれば、物流拠点(天竜二俣面駅界隈)に骨材生産プラントを整備することが可能となります。それにより、浜松方面への骨材供給が可能となり、天浜線を利用すれば豊橋、掛川方面にも可能となり、増産が可能となります。
物流拠点となる駅に近接して、骨材生産プラントを整備することで、ベルトコンベヤで堆砂をプラントに送ることができ、システム化された量産が可能となります。また、プラントで使用する電力は全て、バイオマス発電で賄うことにより、林業廃材の有効活用が可能となり、骨材コストの削減にも役立ちます。そこから新たな雇用を生むことができます。
持続可能な森林経営を実現するには、林業廃材をいかににして処分するかが重要となります。鉄道で使用する電力を全てバイオマス発電で賄うことで、大量の林業廃材を処分することができ、一石二鳥の効果が得られます。
鉄道は林地から物流拠点まで、大量の木材を効率的に輸送することができます。鉄道の敷設は一大事業となりますが、無尽蔵に近い森林資源を半永続的に輸送できるようになり、林業を基幹産業へと発展させることが可能となります。同時に、ダム堆砂も連続的・効率的な輸送が可能となります。
鉄道は大量輸送に適しており、一旦整備すれば100年以上利用できるうえ、インフラとして公設民営方式で整備することで、木材の輸送コスト削減が可能となります。さらに木材輸送時は下り坂のため、250mの標高差により電力が節約でき、回生ブレーキによる充電もできるため、輸送コストを削減することができ、価格競争力のある天竜材とすることが可能となります。
計画沿線には佐久間・秋葉・船明ダムなどの観光資源があり、佐久間ダムには佐久間電力館があり、船明ダムにはボート競技場があります。再造林や山林管理なども便利になり、佐久間以北はJR飯田線と接続でき、浜松と飯田市を最短距離で結ぶ公共交通が生まれ、交流人口の拡大につながります。
インフラ(鉄道)の整備、バイオマス発電による電力の自給自足、CLTの生産・販売など、林業の基盤整備により、天竜は価格競争力の強い「天竜材」の産地となり、「稼ぐ林業」への道が拓けます。関連する事業において新たな雇用が生まれ、人口減少問題を克服することが可能となります。